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クロース・トゥ・ジ・エッジ

 







 
 小さな海賊船は穏やかな港に浮かんでいた。島の名前はナイジェル島というそうだ。比較的大きめの島で、交易もそこそこ盛ん、気候も穏やかで島の住人たちも活気があふれて笑顔が多く見受けられる。
 いつもの麦わらを被ったドクロマークの帆はとうにたたんで倉庫にしまわれ、何の変哲もない生成の帆が帆桁にきっちり畳まれている。彼らは今回長めの滞在を見込んで港湾管理部に偽造書類を提出し、しっかり交易船ゴーイングメリー号として港に繋留していた。
 港湾管理料の支払いは、ほんの少しナミの眉根をひそめさせたが、それでも目の前に広がる賑やかな街並みに最終的には渋々ながらも必要経費として制服を着た管理人にきっちり七千ベリーを支払ったのである。

「ログは一週間で溜まるんですって」
 早速情報を仕入れてきたナミがクルーに告げた。
「ま、そうは言っても一週間かっきりで出航する必要もないし、ここしばらく落ち着かなかったからここではゆっくりしましょうか。海軍が常駐するほどの規模でもないけど、その割には物資が豊富みたいだし、久しぶりに文化の香りがするわ。ああ〜〜、私、美容院だけじゃなく、ネイルサロンもエステもしばらく遠ざかっていたから、絶対ここで磨いてこなくちゃ。ロビンも行く?」
 ナミはオレンジの奔放な眼と髪の色が示すように、性格、言動もよく言えば溌剌で快活、悪く言えば放埒で気まぐれであった。それと対称的にロビンはその黒髪と大きく黒曜石のように濡れたような瞳にともすれば冷たい印象を与えられるが、奥底には穏やかな仲間への配慮と思慮深さをたゆたわせている。
 そんな対照的でどちらがどちらに優っているとは決して言えない二人の美女を視界に入れて、サンジは心の底から幸福感を味わっていた。
(俺ってば、この船に乗って本当に正解っ!いいよなァ、ナミさんもロビンちゃんも。ナミさんが大輪のバラとしたら、いやいやカトレア、いやまて蘭の方がいいか、そしたらロビンちゃんはさしずめ雨に濡れたあじさい、いやしっとりとした百合、いやいや月の光で咲く月下美人かなあ)
「おい、クソコック」
(ふたりともでも全然か弱いところもなくて凛としてて。いやもちろんレディは弱くても俺がきっちり守ってさしあげるから全然構わないんだけどよ、でもこう、美しさにますます磨きがかかるってゆーか)
「おい」
(やっぱ、レディはそこに居るだけで、いいもんだよなァ)
「おいって、聞こえてんのか、クソコック。いつまでも鼻の下伸ばしてあっちの世界に行ってないで、いい加減帰って気やがれ」
「……」
「ん?」
 ぎろり、と向けられた目が、片方だけでも妙に迫力を増してゾロを睨みあげた。
「るっせーってんだ!この絶世の美女おふたりとしばしお別れする前にシアワセ気分満喫しているとこを、邪魔すんじゃねー!」
「何言ってんだ、お前? 俺ぁ少しの時間でもこいつらと離れられるってんで開放感いっぱいだけどな。どうせまた航海始まれば毎日いやってほど顔突き合わせるのに。見てるだけでシアワセになれるなんて、お手軽だなー、お前。触らないで見てるだけでイけるくらい溜ってんのかよ。」
「な、なんちゅーコトを言うんだ! このクソアホマリモ!」

「う、る、さ、い!!」
 がつんッと両手の拳骨が二人の頭上に容赦なく落とされる。きゃしゃな女の手といえど、こういう時にはなぜかがっちり分厚い野郎の手と同じかそれ以上に痛い。
 うう…と頭を押さえる二人を醒めた目で見ながら、
「ほーんとにいつもいつも、つまんないことで言い争いしてないで。ぎゃーぎゃーわーわー、傍にいるコッチの身にもなってほしいわ。仲がいいのは結構だけど、度を超すと迷惑だわ」と言い放つ。
「ど、ドコが仲がいいって?!」
 異口同音に声を上げ、まったく同じ様に目を剥いて反論しようとする二人を、ナミはああもう、と手で制し、
「はいはい、もういいから。とにかく私とロビンはちょっと街へ行って来るから。夕食は要らないわ。最後の人は鍵締めるの忘れないでね」
 ひらひらと手を振り、ロビンをうながせて立ち上がると、二人はラウンジのドアを開けて出て行った。
 桟橋へひらりと降り立ち、船から離れるにつれ、ナミはついぽろりと口からため息とともに言葉を落とす。
「まったくもう…」
「ふふ。可愛いじゃない」
 ちょっと早足ぎみのナミに歩調を合わせながら、ちらりとロビンは横目でナミを見やった。
「可愛いって、私も早くそう思えるようになりたいわ。すごく正反対の性格でいながら似たもの同士なんだから手に負えないったら」
「ふふ。妬ける?」
「どこが! 鬱陶しいだけよ。あれで自分たちは仲が悪いとか気が合わないとか思ってるのが許せないだけ」
「そうかしら。本当は彼らだってわかってるのじゃなくて?」
「…まあ、そうね。わかってる、とは思うんだけど。敢えて背を向けて認めようとしないところが気にくわないのよ」
「でも、そうやって彼ら自身、バランスをとってるのかもしれないじゃない?」
 その問いに、ナミは答えを返すことはしなかった。長いこと沈黙を続けた後に口を開いて出た言葉はそんな話題はさっさと頭から追い出すが吉、とばかりに全く関係ないものだった。
「あっちの角を曲ったあたりがメインストリートみたい。洋服も買いたいし、久しぶりにコスメもたくさん見たいわ。いいお店あるといいけど」
 そして以後綺麗さっぱりその話題は二人の口から出ることはなかった。

「…おい」
「んだ、クソミドリ」
 確かにナミとロビンがさきほどそこにいた時とは少しだけ違う雰囲気がラウンジに漂っていた。いや、正確にはラウンジという場所ではなく、二人が少しだけ違う空気をまとっていた。別に今まで演技をしていたわけではなく、また二人ともそれが素の状態というわけでもないのだが、「つとめて仲が悪い顔」でもなければ「仲間としての信頼を置いた顔」でもない。フラットな、感情を綺麗に拭ったようなそんな坦々とした雰囲気となっていた。
 呼びかけたはいいが、実は用事があったわけではない。先ほども、妙に意識が浮きまくっているサンジのツラが気にくわなかったから呼びかけたにすぎない。別にいつもならそんなことは放っておいたはずなのだが、なんとなく久しぶりに島に着いて、ゾロも海の上とは違う気分になっていたのかもしれない。
 呼ばれたサンジはゾロの次の言葉を待ったが、ゾロも口を噤んだままだ。耐えかねて、
「何の用だ」
 と重ねて尋ねてみたが、もとより用があったわけではなかったので、
「いや、何でもねぇ。邪魔した」
 ゾロはくるりと背を向けてラウンジを後にする。
 サンジを視界に入れていると、何と名付けたらいいかよくわからない感情が時折湧き起こる。この気の強いコックとは以前より躯を重ねる間柄で、その点で言えば他の仲間よりは少しだけ近しい位置にいると言えるのかもしれないが、かといってそれが心の内までも近いと言えるのかどうかは甚だ疑問に感ずるところでもあった。
「…変なヤツ」
 ゾロが消えたラウンジの扉をほんの一秒注視したものの、サンジはすぐに買い出し予定のメモの作成に精神を集中させた。
 その晩、ゾロは船へ帰ってこなかった。

 翌朝。
 心なしか肌の艶が増したナミが朝食の席でそういえばね、と言い出した。
「昨日、サロンで聞いたんだけど」
 優雅にクロワッサンを二つにちぎりながら話し出したことは、全員の関心を一気に惹き付けた。
「ほら、ここナイジェル島からちょこっと離れたところに、小さな島が見えるでしょう。あの島ってね、ログポースが狂うんですって」
「ええっっ、そんなコト聞いたことねぇけど、ホントかよ?」
「うん、よくわかんないけど、なんでも島自体が火山性の島で、ものすごく強い磁気を帯びていて、通常のログポースはそっちの磁気にやられて狂ってしまうのだって。だからログを溜めて次の針路を決める私たちみたいな旅行者は、親島にあたるこっちの島でログを溜めて、あっちの島へは行かない方がいいよ、って聞いてきたのよ」
「へーえ、じゃあ、あっちの島には人が住んでいないのか?」
「いいえ、ちゃんと住人はいるんですって。あそこの島の特殊な土壌にだけ生育する野菜とか花とかを月に一回こっちの親島に売りにくるらしいわ」
「じゃあ、ログはなくても行き来はしてるんだ。まあ目に見えるくらい近いからな」
「だけど、そんな近くて月一回しか行き来がないのか?」
「そうよ。やっぱりそう思うでしょ。私もそう思って聞いてみたんだけどね、あの島に入れるのが月に一度だけなんですって。なんでも島の周囲にすごく複雑な海流が渦を巻いていて、普段ならとても近づけないのだけれど、大潮の日だけは渦が相殺されるか何かで、島に入れるのだそうよ。本当ならもっと頻繁に出入りできればお互いの島民にとっても交流が盛んになっていいのだそうだけど」
「へーえ、うまくいかないもんなんだねぇ」
 皆が不思議がって感心している中、黙って聞いていたサンジが初めて口を開いた。
「ナミさん、その島の名前は?」
 ナミは振り向いてその大きなオレンジの瞳をサンジの青いそれと交わらせた。
「ええと、確かラッセル島」



 その日朝食の片づけが終わり次第、サンジはふらりと何も言わないままに船から離れていった。多分買い出しに追加の物資があるんだろうと思ったクルーはいたのだったか。普段航海中は同じ船中に寝起きを共にしているだけに、基本的に島にいる間はお互いに干渉しないことが暗黙の了解、というか不文律になっていた。
 午後になって大量に購入した洋服の収納のために女部屋の片づけをしていたナミは、コンコン、と遠慮がちなノックの音を聞いて、ハッチを開けるとそこにサンジの優しげな眼差しに出くわした。
「あら、サンジくん。なぁに?」
「ちょっと手を休めてお茶にしませんか? 美味しい茶葉を手に入れたので是非」
「…いいわよ、ちょっと待ってね。今行くから」
 上機嫌のため足取りも軽く、とんとんと軽快にステップを上る。
 ラウンジに行くとふんわりとした、清々しい香りが辺りに漂っていた。
「あら、これダージリン?」
「そ。それもファーストフラッシュですよ。ささ、召し上がれ」
「ふぅん……いい香り……」
「そしてお茶うけにはマドレーヌをね。このダージリン特有の青っぽい爽やかな味に合うでしょ?」
「ああ、なんて素敵……これこそ文明の香りだわ。美味しい…」
 うっとりと紅茶をすするナミと、それを見守りつつ微笑むサンジに、続いてナミが言う。
「それで? 何がしたいのかしら?」
「あっは。さすがナミさん…! 何も言わなくてもボクの胸の内を察してくれるとは…! やっぱりボクとアナタは赤い糸で繋がっているんですね…!」
「バカ言ってないで。そりゃティータイムにおやつは今日が初めてってわけじゃないけど、何か言いたげだってのは丸わかりだわよ。で、何?」
「……今朝の話、もう少し詳しく聞いてきたんだけど」
「ログポースが狂う島?」
「そう。俺、ちょっと気になって。もちろんナミさんの言うことは全部信じてる──その上でそれを確証したかっただけなんだけど」
「わかってる。それで何?」ちょっと苛々してナミの声がうわずった。
「あのラッセル島に入れるのが月に一度、って言ってたよね。それが明日なんだって。で、俺さ──ちょっと行ってみたいんだけど、いいかな?」
 そのサンジの言葉にナミはすぐに返事を返さず、ゆっくりとティーカップを傾けてその澄んだ金褐色の液体を最後まで味わってから、おもむろにサンジへと向き直った。
「でも一ヶ月も私達はこの島でサンジくんを待って過ごしていることはできないわ」
「うん、わかってる。それにメリー号のログポースをあの島へ近づけるわけにはいかない。だから、今いるこの島を出立するときに、拾って欲しいんだ。それはクソゴム船長とナミさんでしかできないでしょ?」
「……まあ、確かにそうだけど。通常の海流が描きこまれた海図と、言われている渦の詳細なデータがわかれば、多分……」
「そう言うと思って、これ」
 サンジは内ポケットから折りたたんだ紙を数枚出し、テーブルに広げた。
「まあ、用意周到なこと」
「お褒めにあずかり恐悦至極」
 サンジは立ち上がると胸に手を置いて深々と礼をした。そして上目遣いにちらっとナミの表情を伺いつつ、軽く首をかしげて「ダメ?」というように目だけで問いかけた。
 その大仰な仕草と視線のアンバランスさに、ナミは陥落する。大げさに肩をすくめ軽くため息をつくと、
「…はいはい、しょうがないわね。他ならぬサンジくんのお願いだもの。いいわ。行ってらっしゃいな。だけど五日間よ。私達はこっちの島を六日後には出発する。タイミングはその時だけ。それを忘れないでね」
「ウィ、マドモワゼル!」
 ぴし、と背筋を伸ばした姿勢から、もう一度深々を頭を下げる。顔を上げた時にはもういつもの柔和な光をその隻眼にたたえていた。
「もう一杯おかわりはいかがですか?」
 カップを差し出しつつナミはサンジの笑顔に負けじとにっこりと微笑んだ。
「ありがとう、いただくわ。そうそう、当然、ピックアップ料はいただくわよ?」

 その晩。夕食後のコーヒータイムにサンジは明日からの単独行動をさらっと告げた。
「ええ?サンジ離れ小島へ遊びに行くのか? 俺も行く!」
「……あーー……、悪ぃが、マジで何もねぇつまんねぇ島だそうだぞ?」
「じゃあ何で行くんだ?」
「ちょいとな。あっちの島にしか生育しねぇ野菜ってのが気になってな。できればそれが直接育っているところを見てみてぇだけだ」
「ふぅん。そんじゃ仕方ねぇな!」
「ああ、それにこっちの島の方が遊ぶ場所には事かかねぇ。ちょいと繁華街を流し見たが映画館も劇場もあったし、岬の向こうには遊園地らしきものもあったな。あと、サーカスのチラシも見たぞ」
「ええっ! サーカス! 見てぇ! 行きてぇ!」
「なぁ、サーカスって何だ?」
「そりゃあおめぇ、軽業師がぴょんぴょん跳んだり撥ねたり、目隠ししたまま剣で標的を切り裂いたり、あと動物たちが火の輪くぐりをしたり……」
「ふうん、ルフィみたいな人と、ゾロみたいな人と、あとオレみたいなゾォン系が技を見せるのか?」
「う、まあ、考えればそう言えなくも、ねぇ、かな。いや! 違ぇ! サーカスはだな、もっと子供達に夢を見せ、大人達には子供だった頃の郷愁を感じさせるもんだ! ルフィやゾロみたいなのとは全然違うって!」
「……何が俺みたいなのとは違うだって?」
「あ、ゾロ」
 のそり、とドアを開けて入ってきた剣士は自分の名前がちょうど話題にのっていたのが気に入らなかったのか、明らかに眉をひそめてどっかりとテーブルに着いた。
「遅ぇ! てめぇの分の夕食はとっくにねぇぞ、このクソ遅刻マリ藻!」
「あ? ああ、いい。食事は街で済ませてきた」
「…んだよ。ならそう言っておけよ。こっちにも予定ってモンがあるんだからよ」
「悪ぃ。気をつける」
 てっきり怒鳴り返されると思ったのがあっさりといなされたので文句だけをぶつけてみるも、それも簡単に謝罪され、拍子抜けをくらう。
(何だ? 一体この野郎はどうしやがった?)
 まるまる一日この男は船を離れてどこへ行きやがったんだか。到着初日から船を降りて無断外泊とは、そうとう溜っていたのか。そういや、最後にヤったのはいつだったか。
 身体を重ねると言っても、二人共に気が乗って、そういう雰囲気にならないとそうそうコトに及ぶこともない。
(ま、やっぱな、レディの方がいいに決まってるし)
 それに関しては充分理解しているつもりだ。自分だって自分みたいなのと女性の柔らかな身体と比べたらやっぱり女性の方が抱き心地がいい、と思う。
(別に今さらどうこう言うつもりもねぇが)
 皿を拭きあげながら、つとめてそのことは頭から追い払い、明日踏み入れる小さな島のことを考えようとした。なので、ゾロが周囲から今までの話題を繰り返し聞いた後に言った一言は最初頭に入ってこなかった。
「俺も行く」
「へぁ?」
 間の抜けた声が出た。
「俺もその島へ行く」
「…何とおっしゃいましたか、クソ剣豪殿? だから俺様が行くのはだな、ちゃんと目的があって」
「ああ、なんか特殊な野菜がどうたらとか言うんだろ? いいぜ、つきあってやるよ。俺ぁヒマ潰すのはどこだって同じだからな」
「……ッ! てめェが来ると邪魔なんだよ、クソマリ藻! てめぇ自身頭が野菜なクセしやがって。ああ、マリモじゃねぇ、ブロッコリーなのかその頭は? それで自分みてぇな野菜が生えてないかどうか同族探しをしてぇってわけか?」
「ぎゃんぎゃんうっせぇな! そんなに俺がつきあってやるっつぅのがイヤなんか、てめぇは! いつもは『買い出しつきあえ』って体のいい荷物持ちを平気でさせるくせに!」
「じゃあ何か? ご親切にお優しくも荷物持ちを自主的にしてくださるってぇわけか?」
「ああそうだ! ご親切でお優しいからな、俺は!」
「勝手にしろ!」
「ああ、勝手にするさ!」
 その間他のクルー達は、二人の怒鳴りあいはどうせいつものこと、と口出しを控えてどう決着がつくかこっそり陰でコインのやりとりが行われ始めていたが、意外に早く決着がついたのでわたわたとコインを握った手を背中に回して二人の視線から隠した。
「え、えと……、じゃあつまり、六日後に拾っていくのは二人、ってことでいいのかしら?」
 ナミが確認を兼ねて声を掛ける。
(その時スイとテーブルの下から白いなめらかな手が各々の膝のあたりに「生えて」、百ベリー硬貨の回収と分配を行ったがゾロとサンジはぷい、と互いの顔から視線を逸らしていたので何も気づくことはなかった)
「……まあ、じゃあ、そういうことで。仲良く行ってらっしゃい」
 どこをどう見ても「仲良く」はなりそうもない雰囲気だったが、ソコまで世話を焼いてあげる義理も暇もないし、まあそれなりには上手くやるでしょうとさっさとその話題を切り上げる。
 子供じゃないんだし。喧嘩をしつつも肝心なところでは協力しあうこともちゃんと知っている。昼間ロビンに言ったように、結局のところ「似たもの同士」なのだ、彼らは。
 そんなことより、滞在期間を目一杯無駄なく楽しむための計画を練るほうが今は第一の優先事項だわ、とナミは頭のスイッチを切り替えて、そして残りの滞在日をひとかけらも二人のことは思い起こさずに過ごしたのだった。