こちらのプルダウンボックスで読みやすいスタイルをお選び下さい。






パラキシャル フォーカス(17)




「俺は───」
 皆が注視する中、サンジは重そうに口を開いた。
「これが、そんなに重要なこととは、とても思えねぇ」
 なんだと?意外なサンジのセリフに全員が目を剥く。
「不老、ってのがそもそも嘘くせぇし。悪ぃ、ナミさん、ナミさんの期待できるようなお宝はあり得ねぇよ」
「でも。『奇跡の水』よ? 少なくとも、何らかの作用を及ぼす液状のモノがあるはずだわ!」
 ナミが紙片を弾いて声を張り上げた。
「………」

 あぁあ、お宝が絡むとナミさんは異常に精力的になるんだったよ。もちろん俺の全てをおいてもナミさんの手足となって、ナミさんの望むようにしてあげてぇなぁ。けどよぅ。

「ねぇぇ、サンジくん───」
 はぃい?と顔だけはニッコリと笑みを浮かべるのを間近に覗き込んで。
「わ、た、し、が。 お、ね、が、い。 しても?」
 サンジはもう冷や汗がだらだらと背中をつたうのを感じていながら止められなかった。
(ナミさんの、ナミさんの、ナミさんの、おねがい。うわぁあ。ダメだ俺。落ちる)
「よせ。ナミ」
 サンジの絶体絶命の危機を救ったのは、意外やゾロの低い声だった。
「コックは、吐かねぇぞ」
 サンジはナミの超ドアップで振りまかれた笑顔に八割方落ちかけていたが、ゾロの声に一瞬で顔を引き締める。思わぬところからの助け舟に内心ほっと安堵の吐息を漏らしながら、それでも罵声を浴びせずにはいられない。
「ンだとコラ。吐くなんてまるで俺がゲロするみてぇじゃねぇか。ナミさんのご尊顔を前にそんな真似できるわきゃねーだろーがっ。このクソボケ剣士っ」
「ふん。勝手に言ってろ。だいたいてめぇはなぁ───」
 いつもの様に、いつものごとく。二人の間は剣呑な空気が流れるが、いつもの口喧嘩のおかげで張りつめたラウンジの雰囲気が変わったことに気付いたものがいたのかどうか──
 
 ナミは交互にゾロとサンジを見比べていたが、ふ、とひとつ肩をすくめると、言った。
「しょうがないわね。サンジくんがここまで頑固だったなんて、計算外」
 そして先ほどとはうってかわって真面目な顔でサンジに問いかける。
「ならサンジくんに託されたモノはお宝とは関係ないって言うの?」
「あ、や、ナミさんっ……。正直言って、俺にもわからねぇ。こればっかりは、俺もまだ何が何やら。ただ、多分、奴らの狙っている目的も、ナミさんの考えているお宝も、『違う』───ように思えてなんねぇ。だから、期待したって無駄だと───」
「だから、その根拠は? 何をもって──」
「なにをごちゃごちゃ言ってんだ、二人とも」
 二人の声がまた堂々めぐりをし始めたところを、ルフィが遮った。
「ルフィ」
「クソゴム」

「なぁ、サンジ」
「………」
「おめぇ、一体何を怖がってる?」
「何を言う。怖がってる風に見えるか?俺が?」
「ああ。見えるな。何かを俺たちから隠そうとして、それを見られまいと必死になってる──ように見える」
(あああ、まったくこのクソゴム船長はよ。いつもはただの大メシ喰らいの役立たずのくせして、たまにこう、そのものズバリ核心ついてくるから、油断がなんねぇんだよ)
 カチ、とライターに火をつけて、胸ポケットの煙草をさぐる。
「ほら、そうやって都合が悪くなると煙草に逃げるだろ? 気付いてないと思ってんのか。サンジよぅ。隠してぇんならそれはそれでいい。けど、おめぇの本心を話せ」
 取り出した煙草は宙をさまよい、そのまままた胸ポケットへ戻して。

「……じゃあ、言うが」
 ルフィの目をひた、と見つめて。
「この一件、全て俺に任せて欲しい」



「───!」
「…な!」
「……何言ってッ!」
 ざわっとラウンジの空気が一変する。その中でもルフィは落ち着いたまま言葉を発した。
「………おめぇが全部カタをつけるんだな?俺たちの手はいらねぇってそういうコトか?」

「バカ言えッッ!」
 ウソップが激昂して声を張り上げる。
「おめぇのことなんだぞ!」
「ああ!だからてめぇの始末はてめぇでつけるさ!何も皆の手を借りるこっちゃねぇ!」
「水くさいぞ、サンジ!仲間じゃねぇか!」
「俺の問題だ!俺がカタをつける!誰もごたごたぬかすんじゃねぇっ!」
 自分で自分の声にハッとして、
「………言い過ぎた、すまん」
 ばつが悪そうに視線をさまよわせる。
「……悪ぃ。だがお願いだ。俺にカタをつけさせてくれ。そうすれば、きっと今までひきずってきたモンがすっきりすると思うんだ」
「でも!」
「サンジ!」
「サンジくん!」

「いいじゃねぇか」
 ルフィがまた口を開いた。
「サンジの問題をサンジがそうしたいって言ってるんだ、俺たちがとやかく言う資格はねぇ」
「……ルフィ……」
「なぁ、サンジ。カタをつけたら、その時は話してくれっか?」
「ああ。」
「なら、いい。───カタぁつけたら、盛大にパーティしろよ!それで勘弁してやる!」




 

(16) <<  >> (18)