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パラキシャル フォーカス(39)




 ■ エターナルポースの示すもの



「その『写し』の方を見たときから、どうにも腑に落ちなかった。その文章を書いた男はどこかの場所へ行ったことしか書いてねぇ。なのになぜ『奇跡の水』なのか。ナミさんは液体状のもの、って言ってたけど、どうもそれだと文脈が意味をなさねぇ。それを確認するためにどうしてもオリジナルの手記を見たかったんだよ、俺は」
「んで、この追跡行か?」
「まぁな。さっきも言ったように『鍵』と『片目の男』両方でおびき出せば必ずボスまで出てくると思った。最後まで食らいついてくる奴の中に絶対居るってな。もう少し背後に隠れているかと思ったが、こちらがたった二人だとふんで侮ってたな、堂々と最初っから先頭切ってきやがった」
「──知らねぇってことは、怖ぇなぁ……」
 いやでも、知らねぇからこそ幸せってこともあるか。このコックが本気で奴らを潰そうと思っていたら独りでも充分だったのを結局奴らは知らねぇで無事に帰路に就いているわけだし。
「んで、ここだ」
 サンジはゾロの呟きなぞどこ吹く風で受け流し、紙の一点を指さす。
「『奇跡の水 へと辿り着いた』ってあるだろ?『水』の後にインクの滲みがある。ここに一文字入っているんだよ」
「読めねぇぞ?」
「考えろよ。「エターナルポースが指す場所」なんだぞ?『奇跡』と言えば、『奇跡の海』と言われたオールブルーが思い浮かぶだろ?これは『奇跡の水面』もしくは『奇跡の水域』って書いてあったんだと俺は思う」
 ゾロは言われて紙のその一点をじっと見た。そう言われてみればそうなのかもしれない。

「そこに行けば不老不死の薬のもとが手に入る、なんてそう都合のいいことがあるモンか」
 ケッとサンジは呆れた口調で続けた。「そんな即物的なモンじゃねぇ。オールブルーはもっと」
 そしてしばし口を閉ざす。


(────いつかそれが導いてくれる──)
 遠い、遠い声。




「………多分、『オールブルー』は」
 我に返ってまたサンジが話を続けた。
「オールブルーは、出現する特別な条件があるんだと思う。普通に考えれば絶対あり得ない、ノースブルー、サウスブルー、イーストブルー、ウェストブルーの全てが交わる海。理屈で考えれば存在しっこねぇ。でも存在するはずなんだ───。もしこの世のどっかにないのなら、この世でねぇどっかにはあるはずだろ?で、この世にも出現する『とき』があるはずだ───。そら、空島だってあれだけ『あるはずがねぇ』って言われたけど、ちゃあんとあったじゃねぇか。ただ行く方法がちょっと特殊だっただけだ。きっとオールブルーもそうに違ぇねぇって俺は思ってんのさ」

「───で、コレか?」とゾロが言う。
「そうだ。このエターナルポースは狂ってる。普段はな。だけど、きっとコイツは指し示しているハズなんだ、オールブルーの場所を。ただその『とき』が今は狂ってるから、コイツ自体も狂っているように見えんのさ」

 そんなもんかねぇ、とゾロは内心でひとりごちた。
(ま、いいさ)
(どうせ急ぐ道行きでもねぇし。コイツがいつか行けるって信じてるんなら、それでいい)
(俺も見てぇしな、その奇跡の海を)
(そんでもって、そこに着いたとき、コイツがどんなツラすんのか、それが見てぇ)

「さて、と」
 サンジはゾロの手のひらにあった義眼を拾い上げ、自分の左の眼窩に元通りに納めた。
 瞬間、今ではすっかりオレンジ色に傾いた太陽が造り物と生身の両方の眼に映り込む。すぐとサンジは平生のように髪を下ろすが、ゾロは直前に覗いたふたつの輝きを「忘れねぇ」と強く心に思った。

「んじゃぼちぼちと」
「行くか」
「だな」


 遠くに白い帆が見えた。ノースブルーへ向かうものかどうかまでは夕陽の反射が眩しくてわからなかった。
二人は、その帆に背を向けて歩き出した。



 ■ エピローグ



 少年は丘の上から灰色の海を見つめていた。ノースブルーのこの街は今日もどんよりと曇っている。この分だともうじき雪が降ってくるかもしれない。
「ジェーーイッッ! おかあさんが、もうご飯だから帰ってきなさいってー!」
 頭一つ低い少女が高い声で少年を呼ぶ。それにわかった、と大声で返事をし、なおも少年は海を見ていた。
 オレはこの街で生きてゆく。青いあの海は今は遙か遠いけれど、でもどんなに遠くても海は世界のどこかで繋がっていることをオレは知っているから、懐かしく思うことはあっても再会を期待することはしないんだ。
 柔らかな金髪と闇に舞う剣技。夢のような出会いと別れ。優しさと厳しさ。
 人生のうちの、ほんの数日間だけ重なった、彼ら。
 ───ありがとう。
 ひっそりと口の中でつぶやいて、少年は海へ背を向け暖かい我が家へと向かった。


End.

 

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あとがき

 

 11月からちまちまアップし続けて、ようやく終わりました。
今回、久しぶりに読み返しまして、当時かなり悩みながら上梓に踏み切ったことを懐かしく思い出しています。
 誰にも相談せずひとり黙々と書き続けて、こんなひとりよがりの物語、自分以外誰も面白くないんじゃあないだろうか、と何度考えたことか知れません。
 本という形にして(同人誌という形であれ、自家出版のれっきとした本には違いないですよね)、世に発表して、(まだまだそうたくさんの読者に巡り会えたとは言えない売り上げですが・笑)、それでもそういった形にしたおかげで私の頭の中に展開したお話が、どなたかの一時の楽しみになったのだ、と最近感じられるようになったところです。WEB掲載で、もっと多くの方に楽しんでいただければと思います。
 当時はとにかく自信がありませんでした。でも月日が経って、今振り返って読んでみると、それなりに楽しめるんです。書いた本人なのに(笑)。
 時間が経ったせいで客観的に冷静に見られるようになったせいではないかと思うんですが…。
 
 今回WEB公開いたしましたが、WEBというものはサイト主がその気になれば予告なくなくなったりするんですよね。その点まだ半分作者の手の内にあるような気がします。
 だけれども、本にして手を離れたものは、もう本当に作者の手から遠くなり、それはたとえば恥ずかしいからとかいった理由などで消すことはできないです。
 既に拙作をご購入いただいた方には、その「現物」を手にしている満足感にてご勘弁いただきたいと思います。あ、あと、本のあとがきはさすがにWEBには掲載しません(笑)。タイトルの意味とかごちゃごちゃ書いてますが、それも些細ではありますがアドバンテージということでご容赦くださいませ。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!



2008/1/21 (WJにてゾロがルフィの身代わりを申し出た日)


 

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