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永遠より長く無限より短い一瞬(7)

 





「マスター、お加減はいかがですか」
 ……柔らかな声がする。
 ここはどこだ。身じろぎをしたらギシ、と身体の下でスプリングが音をたてた。
「マスター、水をどうぞ」
 フットライトだけを点けた部屋の中、コップを持った白い手が近づいてきた。片方の手をゾロの背に回し、上体を起す手助けをしようとする。
 と、ゾロがその手を掴み、ぐいと引っ張った。
 突然のことにサンジはよろめいて、ゾロの身体の上にどうと倒れかかる。コップが手から離れ、床に転がった。幸いなことに絨毯が厚いため、水がこぼれただけでグラスが割れるには至っていない。
「マスター、何を──」
「黙れ」
「はい」
 ゾロはサンジの手を目の前に持ってきて、じっと目を凝らして見つめた。しなやかに造られた長い指。日焼けしない白い皮膚。伸びることのない爪。──何でもできる、手。ただ人間を殺すことだけができない。
「上着を脱いで、腕を見せろ」
 サンジは今度は黙って従った。ゾロに片手を掴まれているので、空いたもう片方の手で器用にボタンをはずし、肩を抜いてゆく。ゾロは手を掴んだまま、「シャツも脱げ」と命令した。
 同じ様にシャツも脱いだ。上着もシャツもゾロの掴んでいる手の上あたりでくしゃくしゃと固まりになっている。
 腕もまた白かった。シミ一つ、ほくろ一つない。肩から上腕、肘へのライン。そして肘から手首へのライン。
 男の腕だ。ことさらたくましくはないが、女とは根本から違う腕だ。
 ゾロは一端手を離して服を手首から抜いて落とし、上半身を完全に露わにさせた。
 首。鎖骨から胸。腹。まるで人体模型図かデッサン用の石膏像のように見事に左右対称で、綺麗だ。
(へそまでついてやがる)
 ゾロはちょん、とへそをつついて、その指をつつーっと上へ滑らせ、腹筋を辿った。サンジがびくん、と身体を震わせる。
(お、感じるのか?)
 ゾロは一瞬意外に思いながら、サンジの仕様を思い出した。そういえば皮膚触感はグレードアップされた特殊仕様だったっけ。今まで不要だったからすっかり忘れていた。
 その指をゆっくりとさらに上へ。小さな突起が指に触れた。触れた感触は女性のものより遙かに小さく、頼りない。ようやく摘める程度の大きさだ。軽く摘んでこねてみる。まるで初めて買ってもらったおもちゃをいじる子供のように、強くぎゅっとひっぱったりかるくねじったりしてみる。
「……ふ……ン……」
 頭上から鼻声が微かに漏れ聞こえた。へえ。
 視線を上げてサンジの顔を見たが、明るさが足りず表情がよくわからない。サンジはずっとゾロの方へ上体を傾けた姿勢でいたのを、ゾロはぐいとひっぱってベッドの上に転がし、上を向かせた。同時に部屋の明かりを点灯する。
 明るくなったのでゾロが弄っていた部分がはっきりと見えた。周囲の皮膚よりも少し色が異なって、弄っていた方だけ少し尖っている。
 サンジはというと、目を見開いて真っ直ぐゾロを見ていた。少しだけ驚いたように見えたのはゾロの気のせいだっただろうか。

「マスター、な」
「黙れ」
 ゾロは思わず手でサンジの口を塞いだが、すぐに言葉だけで充分だったことに気付いて手を離した。しかしサンジはゾロの意志を理解してもう何を尋ねようともしなかった。ただゾロを見て、ゾロの意図するところをできるだけ汲み取ろうと務めている。
 ゾロは先ほど弄っていたのとは逆の乳首に、今度は顔を寄せて口に含んだ。本当に小さい。唇と舌でなぶるとそこもすぐに小さいながらも固さを示してきた。上手く出来ている。触感を司る人工ニューロンとシリコン変形を上手く組み合わせているんだろう。
 今度は舌でつつ、と腹筋を下方へ辿った。へそにいきつくとそのくぼみに舌を入れてみる。飾りでしかないので当然ただのくぼみとしか思っていなかったが、サンジはぎゅっと腹筋に力を込め、身を固くした。意外に思ってサンジの顔を窺うと、両目ともぎゅっと瞑っている。へえ、こんなとこもちゃんと性感帯に仕上げられているのか。
 サンジの手がのろのろと動いて自分の口を自分で塞いだ。黙っていろ、というゾロの命令に従うのに、声が抜けてしまうのを阻止するためだろう。
「おい」
 サンジの目が開いて、ゾロを見る。
「口を塞ぐのをやめろ。声は出してもいい。ただし言葉をしゃべるな。わかったか」
 サンジは口にあてていた手をぱっと離してこくりと頷いた。
 ゾロはいったん身体を離し、ベッドの上で半裸で転がっているサンジをじっと見下ろした。サンジは今度こそ困惑の表情でゾロを見上げている。眉は相変わらず間抜けに巻いたままなので、ますますヘンな顔に見えた。だが両方の目は縋るようにゾロを見つめている。身体の方はというと、両手は所在なさげに軽く曲げられて顔の両脇に放り出されていて、胸から腹一帯はゾロの唾液で光っているのに、下半身はまだお仕着せのスーツを着、もちろん靴も履いたままだ。
 ゾロは昼に暴れたときから、頭のどこかが痺れているような、靄がかかったような感じが抜けず、自分が今何をしているのか、何をしようとしているのか、どうしたいのかがわからなくて戸惑った。ぶんぶん、と頭を振ってみる。が、全く効果はなく、眼前の白い身体を見下ろしていると腹の底からどうしようもなくどす黒いモノが湧いてきて、全身を浸食された。
 もう、どうでも、いい──
 そうして、ゾロはその衝動に全てを委ねることにした。



 性急にサンジのベルトをはずし、思い直して「服を脱げ」と命令した。「全部だ」と付け加える。
 サンジは仰向いた姿勢のまま器用に脚をズボンから抜いて靴と一緒にベッドの下へ落とし込んだ。そして先ほどと寸分違わぬ姿勢をとる。今度は一糸まとわぬ姿をさらして、なおもゾロの顔を下から見上げている。
 セックスのやり方を知らないわけでもあるまい。ただゾロの意向が読めないからどう動いたらいいか判断できないでいるのだ。ゾロにとってはそれでよかった。ただ眼前の白い身体を汚したかったゾロには。

 手のひらをあてて、肩から鎖骨、胸、腹、脇腹、腰となでさする。サンジの身体はどこもかしこもなめらかだった。腰骨からすぐ脇の性器は無視して太股、膝、脛、ふくらはぎ、足首、そして足のつま先までいちいち手で触って確かめた。サンジは時折ぴくりと身体を震わせるが、先刻ほど感じている様子はない。ひととおり観察が済むと、ゾロは今度はもっと明確な目的をもって手を這わせた。意図的にサンジが反応を返す箇所ばかりを探し出し、指で触れ、舌で舐め、びくびくとサンジが身体をうねらせ、声が漏れてくるまで執拗にいじくり回す。
 耳朶をねぶり、耳の穴にも舌を入れた。首筋に息を吹きかけ、鎖骨のくぼみをぺろりと舐める。胸は胸筋全体を揉みほぐしながら乳首も同時につまむ。サンジの声が頭の上方から漏れてくるのが頻繁になってきた。
 それでもサンジの男性器には最初から手を触れず、ソレは放っておかれていた。サンジが身体をくねらせるごと、ソレは段々と形を変えてきてはいたけれども、ゾロは徹底して無視をきめこんでいた。
「四つんばいになれ」
 ゾロが命令すると、サンジはのろりと身体を反転させ、ベッドの上に手と膝をついて、背中を晒した。
 ゾロは今度はその背中にも舌を這わせる。同時に脇から手を入れてサンジの胸や腹、手の届く一帯を揉みさすった。サンジの声はもうひっきりなしに響いていた。そしてゾロは背中から腰、そしてその下の双丘に手をかけ、そこの感触も揉みしだいて味わったあと、割れ目に指を入れ込んだ。とたん、サンジの顎がクン、とあがる。
 サンジのそこは、排泄のための器官ではなく、れっきとした性交のための器官として作られているはずであるが、そうかといって性交は人間が行うものであるから、あくまでも人間の器官に酷似している。
 熱い。
 ゾロが最初に触れたその場所は、しっかりと閉ざされていて、はっきりと周囲とは違う熱を帯びていた。
 小っせえ。
 指をもぐりこませようとしても、弾力のある粘膜にはばまれて弾かれる。が、サンジはゾロの意図を汲み取ってその場所を緩めたのでゾロの指が第一関節までとりあえず入った。
 しかしそれまでだった。とにかく動かそうにもひきつれてしまってどうにもこうにも立ち往生している。
(女なら濡れてるんだがなあ)
 セックス用に造られているなら、ここも自動的に濡れるようにすればいいのに、と後でゾロは何度も思うようになるのだが、この時はそこまで頭が回らず、えいっとばかりに引き抜いてサンジにまたうめき声を上げさせた。部屋中に視線を走らせて、寝室の隅に置いてあったアレキサンドラのドレッサーに目をつける。引き出しを開けて、適当にボトルを引っ張り出す。蓋を開けて手のひらに出すととろっとした乳液が流れて化粧品独特の甘い香りが微かに漂った。ゾロはそれをたっぷりとサンジの後孔に塗りつけ、指で中にも塗り込めた。冷たい液体の触感に、サンジはびくりと震えたが、ゾロの意図が明確に解るので、ゾロが作業しやすいようにと尻を突き出した。
 ゾロは自分の夜着の前部分のみくつろがせ、自分の性器にも乳液を塗りつけた。二、三度扱いただけですぐにサンジの後孔に先を押しつけ、ぐいと押し込む。
 押し込んだつもりが跳ね返された。
 ゾロは眉をひそめて、もう一度今度は乱暴なくらいに押し込んだ。とりあえず先端部分がもぐり込む。
 左手をサンジの尻頬にあてて、少し押し気味に、右手は自身のペニスを支えて腰を進めようと試みる。おかしい、コイツはソレ用に造られている筈なのに、まさか肝心の部分が欠陥品なのか──
 訝しみ始めたその時、サンジが身体を支えていた手をはずし、自分の股の間から伸ばしてきた。当然、身体はベッドに沈み、頭部と肩で体重を支えて尻だけ高く上げている形になる。おずおずと伸びてきた手は自ら自分の尻頬を割り、その部分を出来るだけ拡げた。
 ゾロはそのあられもない痴態に思わず喉をゴクリと鳴らした。
「──とんでもねぇ淫乱だな」
 顔は枕に沈んで見えないが、ふとサンジがどんな顔をしてこんなことをしているのか興味を持った。しかし、その気持は自分の中に押し込める。もしもサンジが平静を保ち、食事を出すのや秘書として取り次ぎをするのと同じような表情をしていたら、そこで終わりだ。
 声は、いい。声はプログラムとして「らしく」できるからそのままこっちもその気になっていられる。
 ゾロは頭を掠めたサンジの顔のことはすっぱり振り払って、拡げられたその部分に再度ペニスを押し込めた。
 どこかでくぐもったうめき声が聞こえたのは、自分だろうか、サンジだろうか。

 ようやくペニスを埋め込んで、ゾロはサンジの背中に乗り上げるように体重をかけていた。荒く息をつく。締め上げられる感覚はゾロの思考から最後の理性をはぎ取るのに充分だった。
 それからはよく覚えていない。ひたすら腰を使い、揺さぶり、自身の快楽を追った。サンジの身体はどこも白くて、片足を上げさせて股を挟み込む形でぐいぐいとねじり込んだときも腿と膝の裏が眩しいくらい真っ白だった。唸りながら射精し、すぐまた自ら扱いて勃たせ、サンジを貫くことを繰り返した。時間が経つにつれ、ルームライトの光を淡く弾いていたサンジの肌は、背中一帯、尻のあわい、太股と、まんべんなくべとべとと粘つく精液にまみれて鈍く沈んだ。
 夜が白々と明けるころ、ようやくゾロは文字通り精も根も尽き果てて、ばたりと倒れ、そのまま気絶するように眠った。
 最中、ゾロは一度もサンジの顔は見ず、サンジ自身の性器は一度も触れられず震えるがままだった。
 






 

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